コメッセージ297号 2021年2月号
「巨人、大鵬、卵焼き」といえば今では古き昭和の戦後復興の時代、時の社会世相を言い表した言葉で、他の追随を許さない人気を誇ったものとして野球は長島、王などスター選手を擁した常勝巨人軍、相撲は容姿端麗ながらめっぽう強い北海道出身の大横綱大鵬、そして定番のおかずとして不動の地位を築いた卵焼き....その飛び抜けたポピュラーさが端的にわかりますね。
私もちょうどその頃は小学生ぐらいでうちも鶏を飼っていましたし、たまに鶏小屋に入って卵を採ってきたりとかもしていて卵焼きや卵かけごはんにして食べた記憶があります。
その時の小屋というのは6畳ぐらいの広さに藁やモミガラが敷き詰められ、止まり木があって大きなトサカの雄鳥一羽と雌鳥が10数羽前後?かいたけど毎日いくつかの卵が採れたと思います。
日中天気の良い日などは外に出していて土や草、ミミズ、虫などもついばんでいましたし、くず米、とうきびがらなどもやって最後、産まなくなった鶏は自家用肉として食べたものです。
今はもちろん我が家では鶏を飼っていませんし卵は正直、鶏を飼うよりスーパーで買った方が断然安く、よく聞くところの物価の優等生そのものです。
特売品としてよくスーパーのチラシに載って客よせの宣伝にも頻繁に使われる卵ですが、その裏では採卵鶏業者のギリギリのコストカットがなされているようで、窓がなく人工的に昼夜、空調、給餌などの時間、環境を制御する鶏舎で卵を産む能力、効率を最大限に引き出し、さらに数万、数十万羽という狭小空間多頭飼育でコスト減につなげているのです。
これはブロイラー(肉用)鶏も同様で、多くの小規模農家が昔やっていたやりかたとは根本的に違ってまさに卵(肉)製造工場といった形容がピッタリです。
ところで、近年アニマルウエルフェア(動物福祉、家畜福祉)という言葉を見聞する機会が随分と増えましたが、平飼養鶏、放牧養豚(酪農)、動物園の行動展示などが良い例でしょう。
これは家畜(動物)をできるだけ快適な環境のもと健康な状態で飼養しようというイギリス発祥の運動で、そうすることで家畜の寿命も伸び多産につながり上質な畜産物がより多く生産されるようになってひいては食べる人間にとってもいいんじゃないかということなのです。
過密ストレス原因の病気にならないように抗生物質を多投したり、過重な増体をねらって高栄養配合飼料を無理くりに与えたり、狭い空間に押し込めたりといった前述の飼い方とは真逆で、今は認証制度もできて取り組む畜産農家も増えてきました。
そんな時代背景があるなかで先日危機感を抱いた鶏卵大手業者が北海道選出のY元農水大臣に現金を渡し、アニマルウエルフェアの流れが大きくならないように手心を加えてもらえるよう依頼したことが発覚、受領を認め議員も辞職したY氏は検察庁から起訴されてしまいました。
世界中から濃厚飼料(約9割海外依存)を大量に買付け淘汰を重ね物価の優等生を続けてきた鶏卵ですが一方で今年度累計で肉用含め鳥インフルエンザ感染350万羽余りを殺処分しています。
ハイテク(AI,IoT,化学,生命工学etc.)で極限まで生産量、効率を高めようという動きとエコロジー(環境,健康,多様性etc.)で持続可能な世界をめざす動き、世界はこの両者のせめぎあいの局面もありますが調和した相互補完のもとでの豊かさを実現したいものです。
投稿者:taka-farm