コメッセージ327号 2023年8月号
話は数ヶ月前の5月のことですが、ゴーーーっとエンジン音をとどろかせはがら、うちの田んぼの排水を挟んですぐ隣の荒地を大型トラクターで耕している人がいます。
もう30年ぐらいも荒らし放題にしてあった農地を復元すべく頑張っているようです。
隣の長沼町の農家で、借地として始めるらしいですがもうバブルがはじけて以来手を付けていなかった農地はあちらこちらに灌木が生え、人の背丈を超えるほどのヨシやセイタカアワダチソウなどの雑草が生い茂って格好のエゾシカ、キタキツネ、アライグマなどの住処になっていました。
雑木を撤去し除草剤で草を枯らして整地して2,3年がかりで復元するつもりのようです。
農業が一番の基幹産業である長沼町では大規模化もやや一段落して一戸当たりの耕作面積は20haほどで、もう農地を増やしたく思っても地元では土地が見つからないようになってきたとのこと、それで町外のうちの隣地に目をつけつけたらしく大変なのは承知の上での決断でしょう。
今、日本全国で問題になっている荒廃農地(すぐには農地として利用できないほどの荒れ地)で全国では平成27年(8年ほど前の数字ですみません)に284,000haとなっています。
これらを含めて耕作放棄地(耕作の意思があればすぐにでも農地として利用可能)面積が全部で423,000haあって全農地4,500,000haの実に1/10近くに及んでいます。
これはかなりの部分中山間農地で後継者のいない高齢農業者のリタイアによるものでしょうが、隣地の場合は遠くの地元外の農業者がバブル全盛時に求めたのがその崩壊後、作物の管理が十分行き渡らないなかで放置されるようになり、農地という制約もあって農業者以外に売ることが難しくなかなか買い手がつかなかったというのが実情のようです。
当該地は40年以上前の基盤整備時に区画整理をやっていたので排水やら農道はキチンとしており、大型の機械も入るようにはなってはいますがそこそこ収益の上がる農地にするには相応の年月、手間とコストがかかるのは火を見るよりも明らかです。
じゃ、当ファームはどうなのと聞かれれば現在の米生産と販売(直売所の運営を含む)の二刀流のなかではこれ以上の労働力の確保や機械、施設への投資、コメ以外の他の作物栽培のノウハウの取得等々、当該農地を買うか借りるかしたときのさまざまな負担の増加を考えると最後には何のためにこの仕事をやっているのかわからなくなってしまいそうです。
6代目現社長も同じように考えているらしく今の経営路線を充実、高めていくつもりのようです。
私が就農して間もない若かりしときには現在と同じように規模拡大して生産コストを下げ、経営を安定させようということでしたが今も相変わらずの拡大路線は止まることがありません。
バカでかいトラクターや高度にデジタル制御された農業機械類、巨大な施設群など揃っているような規模になれば確かにいっぱしの農業者なら憧れる理想の姿にみえます。
まちでNo,1規模の農業者になりたいという夢は誰しもが持って当たり前だし、そのことが農業の分野の発展を後押ししてきたのも事実で、私もかつてはそう思っていました。 しかし年を重ねた今は隣地での荒地との格闘の様子を眺めつつチマチマと一本ずつ草取りをしたり、7~8月の夜半には境界排水のホタルを眺めるのも一興と思えるようになりました。
投稿者:高嶋浩一