コメッセージ329号 2023年10月号
ゴー、ガー...という轟音とともにコンバインが動きだし8月31日より稲刈りが始まりました。
8月中に稲刈りが始まったというのは初代が1897年(明治30年)北海道開拓で現在の長沼町に入植してから126年、いつから米作りを始めたかは不明ですが前代未聞のことだということは間違いないでしょう。
ここ数年夏場にまずまずの好天、暑さに恵まれたことで年々収穫時期が早まり、9月の初旬から稲刈りが始まることが普通になっていました。
しかし過ぎたるは及ばざるがごとしというように、今年の極めて異常な暑さは杞憂であればいいのですが道産米の収穫量と品質に多くの問題を起こしそうではあります。
北海道のお米は本州方面のお米とはいささか性質が異なり感温性だそうで、暑さがピークを過ぎ夜温が下がり朝晩がメッキリ涼しくなってくるとどんどん実(モミ、籾)を充実させようと頑張るようになり、その結果透き通った透明感、光沢のある米粒に仕上がるのです。
それが夜温が下がるどころかお盆を過ぎても熱帯夜が続くようになると、北海道の稲にとっては生理的に受け入れられず成長、成熟に悪影響を及ぼしかねません。
人間だって夜、寝苦しいほどの暑さが続けば体調が悪くなるのと同じ道理ではないでしょうか。
今年は中山久蔵さんがここ北広島で1873年(明治6年)赤毛という品種によって寒地稲作に初めて成功してちょうど150年の節目の年に当たります。
当時、この寒冷地で米の生産は不可能と考えられ稲作はダメよと国から禁じられておりました。
彼はそれに毅然として反旗を翻して挑戦し成功したことが現在の北海道稲作の礎となりました。
北海道で作られる稲の一番の先祖となった赤毛はもともとは東北地方にあった稲が突然変異で感光性でなく感温性の形質を獲得したものらしく、本当に奇跡的に誕生し北海道(蝦夷地)に渡って函館付近で作られるようになり、さらに奇跡的に久蔵さんに見いだされ道央でも作られるようになったということで奇跡の連鎖が今の北海道稲作を生み出した大きな要因となりました。
また赤毛はそもそも変異しやすいらしく、広い北海道各地それぞれの地で適応するべく変化を遂げたことも作付が広範囲に広がった理由ではないかと思われます。。
その赤毛を当ファームで生産しているわけですが、寒さに対応してできている品種なだけに今年のかつて無かった異常な暑さが赤毛の生育にとってどんな影響を及ぼすか心配でした。
本年は日本酒「久蔵翁」向けと焼酎「1873」向けの2種の赤毛を作ったのですが、収量は前者が10a当たり6俵(360kg)ちょっと、後者で5俵(300kg)ちょっととまずまずの出来で、明治の時代では立派な豊作の部類だと思われますが、現代品種の「ゆめぴりか」や「ななつぼし」と比べると半分から6分作ぐらいでとんでもない凶作になってしまいます。
検査を受けた結果は1等米ということでまずはホッと胸をなで下ろしたところですが、2013年に5aほどから作り始めて11年目、お酒や菓子用米粉、そして副産物の酒粕など余すところなく使われるようになり、今年はこれまで最大の82aの作付まで規模が大きくなりました。 やりがいも増えたのですがその分だけ当ファームの責任も重大になってきています。
投稿者:高嶋浩一