コメッセージ 139号 2007年 12月号
普段、江差追分どころか、民謡もよく聴いたことのない私ですが、先月、私の所属する中小企業家同友会農業経営部会の一泊例会で日本一の歌声を聴く機会に巡り会えたのです。
歌うのは本年第45回江差追分全国大会で見事優勝に輝いた長沼町の稲作農家M氏で、まだ弱冠32歳!の若手後継者でもあります。
彼は18haの農地のうち13haほどで米をつくり、その生産量の大方を直売しているとのことで、自分のやっている直売の有様から照らしてみてもそのたいへんさは想像に難くありません。
それどころか私以上に相当な努力を重ねていることはまちがいないでしょう。
その上、追分の大会で日本一ですから・・・・まさに天は二物を与えたといえると思います。
姿勢を正し、きっ・・・とやや視線を上に正面を見据え、胸は息継ぎの度に大きくふくらみ、首、頭は小刻みに時に大きく時に小さく震え、声を絞り出します。
その歌う姿を見ていると、50半ばの私自身がもうすっかり忘れてしまっていた姿勢であり、呼吸であることがわかります。
歌手にはとりわけ大事な腹式呼吸、それから目一杯の大声を出すこと、目線を少し上にしっかりと姿勢を保ち屹立すること・・・・・いつも視線は下向きで声は小さく、やや猫背がかった私にはすっかり忘れ去ってしまっていた"型"がそこにはありました。
春、夏、秋と田畑の耕作、管理で汗を流しつつ一農家が単独で精米してほぼ毎日ともいえるお米の配達をこなしながら営業もしなければならないといった典型的農家米屋であり続けるためには、それこそ朝から晩まで米、コメ、こめ、米、コメ、こめ・・・・・心も体もズッポリ米に浸かった"仕事"に埋没せざるを得なくなってくるでしょう。
唄はその対極でプロにでもならない限りまさに"文化"・・・・楽しみ、趣味(M氏の言では唄はあくまで趣味の域でやってゆくとのことですが)・・・・の世界とはいいつつも日本一になった以上米作りとの両立を成してゆくのはよほどたいへんなことと思うのです。
江差追分自体難曲中の難曲で、地元の漁師が潮風にのせて歌い続けてきた哀調深い唄でありその表現には相当な"心"の入れようがあると聞くところですが、日々の営農、販売の「型」と唄の「型」、「心」、これらをどう調和させてゆくのだろうか。
ところで直売所「ふらり」がオープンして一ヶ月半(12月1日現在)が経ちました。
10月半ばのオープンということでどんなことになるんだろうと心配もしましたが、今のところ可もなし、不可もなし・・・・最近の子供達がよく口にする「微妙」という言い回しがちょうどあっているかもしれません。
戸口に立って2,3品見てすぐに帰ってしまう人、中に入って一通り見るものの目的のものがないからなのかこれまたすぐに出て行ってしまう人、それとは逆にあれこれと質問攻めにして中身を確かめる人、そしてその質問も栽培方法から調理法と実に多岐にわたり、ついには自給率や、環境、食育、農政の分野まで広がることがあります。
そうした会話がきちんとできた人とは確かな手応えを感じることができるのです。
そして先週来てくれた方が今週も来てくれるといったリピーターになってきます。
来春から夏にかけて今冬リピーターになってくれた方々の期待に応えられる品揃えとサービスができればきっとうまく行くように思うのですが・・・・・。
この度のオープンに際し品揃えではずいぶん前述の農業経営部会のメンバーの協力が大きな力になっています。
それぞれに素晴らしい生産を上げるとともに地域での活躍もマスコミやミニコミ紙などで取り上げられたり絶えず話題を提供しつづけている人たちです。
そうした私のネットワークにまたとびきり異色の冒頭のM氏が係わることになって、またまた何かおもしろい世界が広がるかもしれません。
職と芸は表裏一体で一芸に秀でた者はすべてに秀でる・・・・そんな彼に期待です!!
投稿者:taka-farm