コメッセージ 173号 2010年 10月号
と仲間の農家が言います。
「何でよ?こんなに美味しいと評判なのに」と私が聞くと彼が言うには、「"ゆめぴりか"という品種名を使って顧客に売ることができないし、しかも全量JAに出荷しなきゃならないなら作っても仕方ないべさ」....ということのようです。
「でもきっとお客さんは食べてみたいと思うんだよな....」と水を向けても「相変わらず品質基準は高いこと言ってるし、じゃ買い入れ価格はそれに見合うほど高くなるのか?....どうせたいしたないべや」.......と、まぁ、こんな調子でどうも人気は先行したものの肝心の生産者(農家)の気持ちはいまひとつ意欲が向かわないようです。
昨年、鳴り物入りで登場したゆめぴりかでしたが設定された品質基準が厳しかったことと、作柄が天候不順でイマイチだったことで十分な生産量が確保できなかったことから販売開始から一ヶ月たらずで市場から姿を消してしまいました。
北海道産で初めて王者コシヒカリに肩を並べることのできる品種ということで力が入ったのですが、ホクレンなど生産、販売組織の目論見は見事にはずれてしまったわけです。
で、今年はといえば先月中旬頃までの暑さで相当期待はされたのですが、逆に暑すぎて収量は平年並みぐらいに落ち着きそうとか、大事な食味はタンパク値が若干高めで昨年の基準をクリアするのはたいへんだとか、そんな情報が飛び交っています。
私の出荷したゆめぴりかがJAがゆめぴりかというブランド名で販売できるものとして合格点となっているどうかは9月末日現在まだわかりませんが、自分で食べてみた限りにおいてかなりいい線行っていると思いますし、食べていただいた方々の反応も上々で、まずは作付けしてみて本当に良かったなと感じているところです。
ところで今月よりコメのトレーサビリティ制度が施行されると新聞に載っていました。
数年前、外国より輸入された米にカビが生えて生食用に使用できないものがあって、政府はそれを主食用からはずして糊などの原料としてべらぼうに安く卸して加工にまわすとしていたのに、いつのまにか主食用として流通していたとして大問題になったことがありました。
結局、不透明な流通の過程でいつのまにか化けてしまったわけで、農水省食糧事務所の監督責任が厳しく問われたのです。
今回の法律は我々生産者からJA,卸業者、小売り業者までの流通におけるコメの追跡が的確に、スピーディにできるようにそれぞれに取り扱いの記帳と3年間の保管を義務づける内容のもので、悪事を働いてとんでもなく儲けたヤツらのためにまた我々は負担をしなくてはならないことになったわけです。
消費者保護と称して数年前に始まった農薬のトレーサビリティとも相まって、生産現場から消費の最前線まで何から何まで管理しようとする監督官庁の思惑が透けて見えますね。
私は個人的に残留農薬の検査はやっていますが、新たな販売のための負担が増えることが今後の営農にどんな支障をきたすことになるのか事の推移を見ていくつもりです。
それにしても北海道の米は美味しいという評価はすっかり定着して、道民の7割以上の方々が食べていただいているようで(愛食率7割)、やっとここまで来たかといった感慨があります。
10年ほど前まで確か半分以下だったと思うけれども、高橋春美知事までが"コメチェン"とかいってマスコミでの宣伝したかいがあったのかとも思いますが、その一方で評価、愛食率の高まりと反比例するように米価の低下は留まるところを知りません。
コシヒカリに匹敵する"ゆめぴりか".....を試験場の研究者は生み出しました。
でもそれを育てて、ブランドとして定着させるためには個々の農家の生産意欲が高まることが大前提となります。
負担ばかり増え,でもさっぱりその見返りが得られないなら育つものも育たなくなるのは道理でしょう。
投稿者:taka-farm